キリンラガービールの興亡



 キリンビールがビールのシェア60%近くを占めていた時代があったことをご存知でしょうか?
 ラガーのTVCMでは「ビールをかわいがってください」とのコピーで、「キリン」や「ラガー」などという言葉は必要無い、それくらいビールといえばラガーだったのです。(いまのサッポロの「LOVE BEER!」はシェアの低い割に大胆だと思う…でもステキ♪)

 自宅で晩酌でも、飲み屋にいってもとにかく「ラガー」。すると飲み屋は値引きがなくても、協賛がなくてもとにかくラガー。よって酒屋もキリンの営業マンをつかまえて、とにかく荷をまわしてくれ、という状態。当時のキリンの営業マンはほとんど東大卒(ほんとうかどうか知りませんが)といわれ、酒屋に営業に来ても「分けてやる」状態だったと親がいってました。
 そのほかは「男はだまってサッポロビール」の黒ラベルの愛好家がいましたが、アサヒ・サントリービールは全くといっていいほど売れませんでした。
 女性向ビールで「ぺんぎん」のキャラクターと松田聖子の歌を使って、サントリービールが一時盛り上がったときがありましたが、そのほかが売れた記憶はありません。(誤解があったら失礼)

 それに転機が訪れたのが、約15年前。私が大学1年のときでした。そう、アサヒの「スーパードライ」が産まれた時です。
 「アルコール度数が少し高めで、辛口」というキャッチフレーズで、一躍注目され、評判となりました。
 すると、それに追随して、キリン・サントリーが「ドライ」を出したということでいかにドライ人気が強かったかがわかります。しかし、後発ということと、それまでキリンに対して鬱積していた酒屋の不満が一気に爆発、「ドライを売るならアサヒを売れ!」という合言葉とともに一気に「ドライ」をラガーの対抗馬まで押し上げたのです。

 その間、キリンも手をこまねいていた訳ではありません。「ドライ」に対抗する商品、「一番搾り」をだし、一気に自社二番商品に育てます。しかしそれがドライを駆逐してくれると思いきや、キリンファンを二分した結果となり、「ラガー」のシェアが落ちます。そしてドライの射程圏内に入ります。

 アサヒはTVCMでイメージよりも品質をアピールしたのが効を奏しドライの人気を上げると共に、業務用生ビール(「アサヒの生」という名前だった)を「ドライ」に切り替え、売上数字の底上げを図ります。

 マスコミはこぞってビール業界の商品トップの座の交代をいまかいまかと待ち構え、(なぜなら酒類業界の伝説となるほどのニュースだったからです)アサヒの記事なら皆好意的、キリンの記事は概ね否定的に流れます。
 アサヒはマスコミに無料の広告を載せているようなものだなと当時つくづく思いました。そんな状態がトップ逆転まで延々続きます。

 せまりくる「ドライ」の圧力にキリンはあせりました。そして、世紀の大失策(と私は思う)「ラガーの生化」に走ったのです。

 当時、「ドライ」も含めて多くのビールが、「熱処理をしない」という意味で「生」(きめの細かいフィルターを通すことにより雑菌をろ過して、熱殺菌のかわりに除菌をしたもの)をうたっていました。そうして逆にラガービールは「ラガーという言葉」=「熱処理」と勘違いされ、=「苦い」というイメージがつき、若者ばなれをまねいたのです。

 そこでキリンは熱処理をやめ、フィルター除菌した「ラガー生」に切り替えたのと共に味を若者向けに苦味を減らしてドライに味を近づけたのです。しかし、若者に近づいた結果、ヘビーユーザーであったお父さん層から大不評をこうむり、ラガー離れに拍車をかけたのです。当時「ラガーをやめて黒ラベル持ってきてくれ」という飲み屋からの電話がよくかかったのを覚えています。
 では若者はそれを歓迎したのかといえばそうではなく、どちらかといえば「ドライ」よりもかえって「一番しぼり」のシェアを食ってしまったようでした。

 そしてその後に打開策も無く、ついに「ドライ」にシェアトップの座を明渡し、マスコミは一斉に「ドライトップ」、「46年ぶりの交代劇」と劇的に書きたてました。

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 その後、「ラガー」が元の苦みのある味に戻されたことはあまりしられていません。(CMでは苦味を強調したものを流していますが。)そしてひっそりと、新聞にキリンの主力ビールを「ラガー」から「一番搾り」に移行する、と発表がありました。

 私は「ラガー」が好きです。味もそうですが、死んだうちの親父のように大きかった存在のような「ラガー」が好きでした。
 「親父」とは強く、大きい存在でしたが、最近の「オヤジ」はなんとも情けなく扱われています。
 バブルもはじけ、男として活躍する場がなくなり、かえってリストラなどと憂き目にあっています。女性や若者の文化や消費がクローズアップされ、「オヤジ」と冷やかされる存在になっています。
 しかし寂しくてもつらくても決してこびることのない強さが「親父」にはあった気がします。ただの意地だったのかもしれません。それでもいいのです。
 「ラガー」には、がむしゃらに社会を支えてきた今の寂しそうな親父さんたちと一緒に、黙って若者に背を向けていてほしいと思っています。そして自分が息子に「親父」と呼ばれる歳になった時に、飲みながらしみじみ親父を思い出す、そんなビールであって欲しいと思います。「親父の背中」とはそういうものだと思っています。
 トップの座を明渡したとはいえ、かつての覇者としての誇りを失わず、強い「親父」の大きな背中を見せてほしいと思います。決して「オヤジ」のビールにならないように…

がんばれ!親父! がんばれ!ラガー!

2000/11/25




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